∞空想旅団∞回顧録~還らぬ翼たち~Volume2
おじい様自身の実体験の話が
始まった。
旧日本軍の知識が皆無の方のために
簡単に説明します。(話の理解の足しになれば)
世界各国とも一般的には
陸軍・海軍・空軍
の3軍で構成されています。
当時の日本軍は陸軍と海軍の二つで構成されていて
空軍としての独立組織はなく
陸軍の中に陸軍航空隊という名の”専属空軍”
(陸軍作戦に従事する航空兵力)
と
海軍の中の海軍航空隊(海軍専属航空兵力)
がありました。
一口に”戦闘機”といっても
陸軍戦闘機と海軍戦闘機は別開発のもので
(組織自体が別物であった)
隼などは陸軍機、零戦などは海軍機です。
また、陸上の飛行場からしか飛びたてないものを
陸上機と呼び、海上を航行中の航空母艦(空母)から
飛び立てる性能をもつものを艦載機と呼びます。
なら、おじい様の言う 「神風特別攻撃隊」
(以下 神風特攻隊)とは何か。
大戦末期 劣勢の中 日本は”負け”の二文字を
禁句とし 「国民全員討ち死に覚悟」を掲げるに至る。
”1億総特攻”のお題目を挙げた。
その先駆けとして 九州全域の海軍航空隊から
沖縄を艦砲射撃中の米英艦隊へ向けて
”体当たり攻撃”をしかけた。
1945年の3月後半から終戦の8月15日まで
時には何10機という部隊 時には独断で単機突入と
延々続けられたという。
戦艦大和もこの時 水上特攻と称して沖縄へ向う途中
米側艦載機に蜂の巣のされて 3000人以上の死者と
ともに深海へ沈んだ。
恐ろしいですね、当時の日本。
現在危険視されているどの国よりも恐ろしい思想だ。
おじい様は、14歳の時に徴兵を受けた(末期の学徒出陣)
海軍航空隊所属とされ大分の航空隊基地にて2年ほど
”戦闘機”乗りとして訓練されていたそうだ。
海軍の飛行隊と聞いて真っ先に思い起こすのは
陸上の飛行場に比べ 話にならない程 短い
海上の空母から離発艦しなければならないこと。
おじい様は言った。
「自分達が徴兵されるまでに、歴戦パイロットは軒並み
戦死していて 学生で急造された私達の5分の一も
空母からの離発艦訓練で死んだんだよ」
この話は「マリアナ沖海戦出撃前」まで遡っている。(沖縄戦1年程前)
おじい様の搭乗機は「零戦52型」だった。
(零式艦上戦闘機52型=三菱製)
「空母から発艦するのはさほど難しくは無い。
難しいのは着艦。エンジンの回転を維持したまま
クラッチを切ってそのまま降下させる。
後は甲板脇のワイヤーに引っかかって機体を止めるだけ。
うまく引っかからない場合もあるから、再び飛び上がれるように
エンジンの回転を維持するんだよ。」
続けてこう言った。
「この訓練の頃 我々は皆14歳~16歳。
今の君たちへ置き換えると中2から高1の年代。
平常心でいる方が難しい。そんな年頃でこんな訓練を
していた。空母へ無事タッチダウンしても、
止まりきれず 再び飛び上がることも出来ず
機体ごと海へ落ちて死んだ者も一杯いたんだよ。」
これが実戦ともなると
10代の戦闘機隊が飛び立つと
再び空母へ戻ってくる機体は皆無だったらしい。
訓練を終えたおじい様たち(16歳頃か)を待っていたのは
日本の敗北が決定的となった1944(昭和19年6月)の
マリアナ沖海戦出動でした。
この海戦にて 連合艦隊の航空兵力は全滅した。
この海戦で 日本海軍は独自の戦法
「アウトレンジ戦法」を採用
米軍艦隊へ空母を接近させず レーダーに発見されない
超低空(海面すれすれ)に飛行機を飛ばし
米艦隊間近になってから急上昇して
急降下爆撃にて攻撃
相手射程外から航空攻撃にて撃滅する
というものだった。
この作戦には無理があった。
この様な特殊な飛び方、作戦は
熟練パイロットでなくては難しいそうだ。
この時の攻撃隊には
おじい様含む学徒出陣パイロットが多く居たそうだ。
勿論、小沢司令官もそれは熟知していて
この方法以外「勝てる作戦」は立てようがなかった。
パイロットの熟練度が足りなかっただけだそうだ。
この頃には、日米の戦時技術には大きな差が出来ていて
とりわけ米側の”レーダー射撃”は完成の域に達している。
日本は米のレーダーによる正確無比な射撃を恐れていた。
レーダーに加え、「VT信管」という技術を米は開発
実戦採用済みで 弾頭(ミサイル)自体にセンサーが付いていて
日本軍機が ある距離内に入ると爆発、放射状に炸裂する破片で
破壊、撃墜するというものだ。
普通に爆撃高高度を飛んで接近しようものなら
米艦隊へ接近・爆撃する前に 全機撃墜されてしまう訳です。
小沢司令官は 空母大鳳の甲板上に 今にも飛び立つ航空隊へ向け
ある指令を伝える。
「任務を遂行したら、ここへ戻って来るな。
母艦がその時海上にあるとは限らぬ。」
航空隊は米艦隊をアウトレンジ攻撃後
フィリピンの海軍飛行場へ向う様指示された。
(当時の日本側新鋭空母 大鳳。攻撃隊発艦後 米側雷撃隊による
魚雷に加え、様々な不運が重なって爆発・沈没した)
かくして
おじい様たち若き攻撃隊は
甲板上の”帽振れ”に見送られ
空母を飛び立った。
目指すは遥か彼方の米艦隊。
米艦隊はサイパン島への上陸を目指しており
サイパンが占領されれば B-29の爆撃可能範囲に
日本本土が入ってしまう為
日本海軍が何としても護らねばならない
”絶対防衛LINE"の戦いでした。
おじい様は戦闘機乗り。
艦船を爆撃する爆撃機隊(彗星)
雷撃する雷撃機隊(天山)
を米戦闘機から護る任務(米戦闘機の撃墜)
でした。
Volume3へ続く
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